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『いつも「時間がない」あなたに:欠乏の行動経済学』

原題は『Scarcity Why Having Too Little Means So Much』(2013)。著者は経済学が専門のセンディル・ムッライナタンと心理学が専門のエルダー・シャフィール。行動経済学の知見を一般の人でもわかりやすく読めるように書かれている。

時間やお金が足らないという状態が、心を占拠してしまい、処理能力(認知能力、実行能力)を低下させるという結果を実験や調査でまとめている。

認知能力は、問題解決、情報保持、論理的推論を指す。実行能力は、計画立案、注意、衝動の抑制を指す。

欠乏が心を占拠し能力を大きく落とす

あるショッピングセンターでおこなわれた実験が興味深い。

「あなたの車に不具合があって、300ドルの修理が必要で、保険で半分だけカバーされる。修理するか、もうしばらく車がもつことにいちかばちか賭けるかという決断させる」という架空の問題をださせる。そのあと、認知能力をはかるテスト(レーヴン漸進的マトリックス検査という予備知識なしで、認知能力を測る検査)と実行能力をはかる問題(衝動を抑えないとうまくいかないゲーム)をだすと、富裕層も貧困層もテストの結果に大きな差はでなかった。

ところが、3000ドルの修理が必要という文面にかえて実験すると、富裕層と貧困層で、大きくかわり貧困層の成績がおちたそうだ。IQポイントで13ポイントほど落ちたそうである。IQは平均が100で、標準偏差が15であり、13ポイントというのは大きな数字である。これは徹夜明けの睡眠不足の状態の結果より悪い

実行能力をはかる問題に関しては、貧困層は、300ドルの金策の場合の正答率は83%、3000ドルの金策を示された場合は63%に落ちるという。欠乏すると衝動を抑制するのが難しくなる。

これと同じような調査をサトウキビ農家の調査で明らかになっている。
収穫前のお金がない時期と、収穫後のお金がある時期で同じテスト(実行能力は別の種類のテスト)をやっていて、同じような結果がでている。この場合は、実験する期間を変えただけで同じ人なのに能力が違ってしまう。

マルチタスクが危険をまねく

他にも運転中の携帯電話が、法定基準以上のアルコール濃度より、危険だそうだ。また運転中の飲食も同様に危険だそうだ。マルチタスクで時間を節約しようとする行為が、より危険な状態をまねく。消防員の死因で多いのが、交通事故でのシートベルト不着用。はやく目的地に着こうという目的で心が占拠されてしまい、重要なことを放置してしまう例だ。

貧困が認知能力、実行能力に負荷をかける

ファーストフードの店長が、低賃金の従業員がミスが多く、マナーよく仕事ができないことを嘆く例がでている。「笑顔で、親切に。顧客が話しかけてきたら少しおしゃべりする。いやな顧客でも、すぐに怒らない。…」と指導してもうまくいかない。店長はスキルの欠如、不十分な教育を原因にあげているが、貧困が原因で認知能力、実行能力に負荷がかかっていて、従業員がミスをしやすく、きれやすい状態になっている可能性がある。

Webサービスをつくるときも、認知能力、実行能力が低下することを前提にデザイナー、エンジニアは設計をする必要があるだろう。

貧すれば貪する、ということわざがあるが、それを裏付けるデータや実験例の数々はショッキングである。

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