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『小さな出版社のつくり方』

フリーライターの永江朗さんが、2000年以降に新しく創業された小さな出版社、11社の創業者にインタビューをした本。主に会社を辞めてから、立ち上げるまでをきいている。

出版業界は、本屋側、取次側、出版社側の3者がいて、本書を読むと出版社側の視点から業界がみえてくる。

取次とは問屋のことで、出版社と本屋の間にはいり、流通、決済、情報を仕切る存在である。書店開店のコンサルティングもおこなっている。本屋を開く場合、場所、店長などを見つけてくれる。

取次がいることで、出版社側は編集・製作に専念できる。本屋側も取次に本の選択を任せることで発注の手間を省くことができる。本書でもいろいろな意見がでてくるが、取次は必要である意見は共通している。

一方で、新規参入の小さな出版社は大手取次からは口座開設の際に、不利な取引条件を提示されるという。実際に本書のインタビューでも何度か不利な条件の話がでてくる。

卸値の掛け率は低く、代金の支払いも7ヶ月後になるそうだ。これは小資本の出版社には厳しい。大手出版社の場合、取次におろせば翌月に入金される。大手取次の株主は、大手出版という問題があり、取次はリスクをとるインセンティブが働かない。

本書のトランスビューの工藤秀之さんのインタビューを読んで、出版業界の独特の商慣習の存在に驚く。

工藤さんが前職の出版社にいたときに、書店から「おたく、減数しますか?」と電話で訊かれたという。工藤さんは意味がわからなかった。つまり、書店が10冊と注文しても出版社は7冊とかに減らして出荷する場合があるという。これは本の在庫が少ないから減らすのではなく、返品をみこして減らす。書店側も減数を見込んで多めに発注する。

トランスビューは取次を通さず書店に直販している。書店から注文があった本だけを出荷している。いたって普通なのだが、出版業界では異端のやり方である。出版業界では取次が、パターン配本といい、本屋の規模や立地などにあわせて自動で本を出荷する。取次は注文を受けていない本を配本したり、本屋側も「即返」といい売り場に並べずに返品するという。

注文があった本だけを出荷する場合、100%店頭に並ぶために、返品率が低くなる。業界全体の返品率は40%だという。トランスビューの場合、13%だという。

この返品率が高いことで、出版社側は毎月出版点数を増やすことで、とりあえず取次にどんどん卸し、お金を回すという悪循環が生まれる。

他にトランスビューは、書店への卸値の改善、少ない点数から発注できるシステムなど既存の出版業界の商慣習の欠点をなくしたやりかたを採用する。現在、50社ほどの出版社が、このトランスビューのシステムに参加して、受注・配送業務をトランスビューが代行している。

書店側は注文した本だけが届き、卸値も安い。出版社側は、有利な取引条件で振り込まれるまでの期間も短い。

11社の創業者の独立までの経緯、スタンスは多種多様である。

羽鳥書店の羽鳥和芳さんは、東京大学出版会に38年間勤め上げたあとに、独立している。大手取次との口座開設の商談が印象に残る。羽鳥さんは62%という卸値を提示され口座開設を断ってしまう。どんな本を出すのかという企画内容を訊かれず、お金の話ばかりだったという。

鉄筆という出版社をたちあげた渡辺浩章さんは、大手取次を通して大部数を販売するやり方を採用している。SPBSは渋谷にある出版社兼書店で、トークイベント、シェアオフィス、雑貨販売などの事業も手がけている。

小さな出版の醍醐味は自分のペースで好きな本をだせること。
小さをいかすこともできる。
そして40代を過ぎても、現役の編集者として全うできる喜びがある。

1人から2人くらいで食える規模であれば、なんとかやっていける。音楽之友社を辞めてアルテスパブリッシングを立ち上げた鈴木茂さんも、ふたりなら食べられるという計算はあったという。

独立を考えている人におすすめしたい一冊。

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