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『ポピュリズムとは何か 民主主義の敵か、改革の希望か』

ポピュリズムといっても二つの方向性があるという。
ラテンアメリカにおける労働者や貧困層を基盤として、社会改革や配分を求める解放志向と、ヨーロッパにおける、リベラルやデモクラシーに依拠しつつ、移民・難民の排除に向かう抑圧的な志向と。

そしてポピュリズムは大きく2つの定義に分けることができる。
ひとつは政党や議会を迂回して直接有権者に訴える政治スタイルと、もうひとつは人民の立場から既成政治やエリートを批判する政治運動と。本書では後者の定義を採用している。

本書ではアルゼンチン、フランス、オーストリア、ベルギー、デンマーク、オランダ、スイス、イギリスの事例を取り上げている。最終章でアメリカ、日本、ドイツの事例が検討されている。

全体を通して興味深く読んだのはスイスとイギリスの事例だった。
おのおの章を割いて解説している。

スイスは19世紀末までに国民投票制度が完成されている。
1847年に統一国家となったスイスは、ドイツ語・フランス語・イタリア語の三言語圏に分かれ、宗教もカトリックとプロテスタントの双方が有力宗派として存在している。そのため統一国家後も、中央政府が強力な権限をもつことへの警戒感が強かった。

そのために中央政府の権限を抑える仕組みとして国民投票が導入された。州レベルでは住民投票や住民集会などの直接民主主義の伝統が下地にあった。

実際に議会を通過した法案が国民投票で否決されてしまう事態が発生した。
そこで政治の安定のために考案されたのが、野党や反対勢力を取り込むことで国民投票の芽を摘む手法である。この手法により国民投票の実施の数が少なくなった。4大政党による大連立政権が常態となり、閣僚ポストの配分も固定になったという。

変わってきたのは1990年代以降だという。
都市化の進行と価値観の多様化、宗教離れなどにより、既存政党の組織基盤が弱くなっていく。政党が社会における代表制を失っていき、政党を国民から遊離した政治エリートの集団とみなす批判が指示を集めていく。

また大企業の合併と人員整理があいつぎ安定的な長期雇用の慣行が崩れていく。

これらの機会をとらえたのがスイス国民党である。
彼らは既存政党は人民の意図を無視して、自己利益を追求している談合であると批判した。また福祉の濫用や犯罪の原因を移民に求めたうえで、その排除を訴えた。
スイス国民党は党員数を伸ばし、国民議会選挙では2003年に第一党の座を占めるようになる。

スイス国民党は急進的な主張を国民投票を利用することで通している。たとえば「ミナレット建設禁止」条項を憲法に加えることにも成功している。ミナレットはイスラム寺院の塔である。スイス国民党はイスラムはスイスの世俗的な法秩序と根本的にあい容れないと主張する。

リベラルな価値に依拠してイスラムを批判し、移民を排除する考え方が指示を集めているのである。
あのスイスが、という驚きである。
デンマーク、オランダもスイスと同様のリベラルやデモクラシーに依拠したポピュリズムが進行している。

イギリスの事例も興味深い。
イギリスはイギリス独立党が、イングランド中部・北部などの工業地帯で支持を集め拡大してゆく。かつて鉄鋼業、繊維産業、炭鉱などが盛んだった地域である。これらは従来労働党の地盤だったという。彼らは置き去りにされた人々といわれ既存政党からは無視された存在だった。

このイギリス独立党の躍進が後のEU離脱を決定する国民投票につながっていく。
このイギリスとまったく同じ構造をもつのがトランプ大統領を誕生したアメリカの大統領選挙である。

ポピュリズムは通常批判的な文脈で語られるが、本書ではポピュリズムの光の部分も解説されている。
これはデモクラシーを活性化して、既存政党に改革をうながす機能である。

ベルギーの事例が詳細にまとめられている。ポピュリズム政党が既成政党に満足できない人々の不満の声を代表することで、ベルギーの人々の政治不信が低下したという。また既成政党に改革競争をうながしたという。

本書を読んで筆者はポピュリズムを表層的な意味でしか理解していないことを痛感した。
スイス、デンマーク、オランダのようにリベラルやデモクラシーに依拠したポピュリズムの出現には驚くばかりであった。

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